歯科矯正における審美
最近、Twitterでよく見る口ゴボ
「ろごぼ」って読んだ人は自分だけではないはず(笑
専門用語ではなくても、広まった用語は矯正歯科医としては、知っておかねば
矯正治療は審美目的じゃなくて機能の改善だ。ということは重々承知ですが、審美性を考えずやるものではないでしょう
側貌の審美
矯正治療による歯の移動でどれだけ口唇が変化するか予想はつかない。予測可能なことは口唇変化の方向のみ
側貌の評価
理想的な口唇の前後的な位置は多くの研究から推定されてきた。年齢、性別、人種によって定義は異なる。RickettsによるE-Lineは、オトガイと鼻によって影響され、それらが標準でない場合は誤った印象になる。鼻の変異の影響を避けるためにBurstoneはSn-Pgラインを提唱。他にもZ-angle、スタイナーのS-Line、Holdway角などがある
E-line
鼻尖とオトガイ部の最前端部に接線を引き、この線に対する上唇、下唇の位置を計測する。Rickettsは、白人の場合はE-lineに対して上唇が4mm下唇が2mm後方にある時が最も調和がとれていると述べている。日本人の場合、成人では白井によると上唇0.15mm前方、下唇2.18mm前方、中島らによると上唇0.6mm後方、下唇0.8mm前方と前方に突出する傾向がある。子供は成長により口唇の位置が変化するため、そのまま当てはめられない
正面の審美
歯列正中と顔面正中の2mm以下の不一致は気づかれにくい。しかし、歯軸傾斜によって隣接面接触点が平行でない場合(切歯キャント)はより気づかれやすい
2mm以下ってこんなもんかな?
こういう歯軸が傾斜しているタイプは確かに合わせにくい
笑顔
魅力的なスマイル
前歯の歯肉の高さは、中切歯と犬歯は同じ高さで側切歯は0.5mm下った位置にある。小臼歯は犬歯より1mm、大臼歯は1.5mm低い
スマイルアーク(スマイルライン)
スマイル時の咬合平面の傾きと上顎前歯の歯冠軸傾斜によって生じる。下唇の湾曲と平行に近い方がよい
Buccal corridor(バッカルコリダー)
スマイル時の口角の暗い部分で、この部位が大きすぎるのは良くないとされる。しかし、改善のための歯列弓側方拡大には、安定性に問題があり限界がある
加速矯正
今回の日本矯正歯科学会は新型コロナによりオンデマンドとなりました。
コロナでいいことはあまりなかったのですが、リモートの促進ということだけは、唯一ありがたい変化でした。
オンラインでの参加はすごく楽なのでこれからも続けて欲しいと思っています(若手に移動費と宿泊費は辛いものがある)
さて、矯正治療をしていると、治療を早く終わらせることができないかということは、患者さんからも求められるし、自分達も効率的に治療をしたいと常に求めていることです。
加速矯正とかスピード矯正と検索すれば、外科的方法、超音波振動、レーザー、セルフライゲーションブラケット、デジタル矯正など色々出てきます。
はたまた、セラミック矯正とかいう歯を動かさないのに名前に矯正を入れてしまうなんちゃって即日矯正なんてものもある始末
そんな誰もが渇望する加速矯正とはいかに・・
Darendeliler先生の講演が面白かったのでまとめました(日本語訳が付いていて英語苦手でも話が分かったからというオチ)
加速矯正を語る前に、そもそも歯はなぜ動くのか?
それは骨が吸収するから。
1ヶ月に最大3mm吸収するが、これだけ吸収させるのは普通は難しい・・
加速矯正には2種類の治療がある
・非侵襲性→振動、ソフトレーザー、Photobiomodulation
・侵襲性有り→コルチコトミー、ピエゾシジョン、MOP(Micro-osteoperforations)
侵襲性のあるコルチコトミーは私は行わない。(からデータ無し)
1.振動は歯根に有害か、歯牙移動に有効か?
・Acceledent (30Hertz)
振動は根吸収に有意差なし
歯牙移動量に有意差は出なかった
・Hummingbird (50 Hertz)
振動刺激の方は根吸収が減った
振動を与えた方が15%ほど移動量が大きかった(0.15~0.2mm/1ヶ月)
2.ソフトレーザーが歯根に与える影響は?
骨と歯肉の厚さ1mmごとにレーザーエネルギーは7%減少する
根吸収への影響は有意差なし
犬歯への歯牙移動への影響は、有意差なし
3.photobiomodulation(レーザー?調べてもよく分からなかった)
根吸収に有意差なし
犬歯の歯牙移動に有意差なし
4.RAP(Regiona Acceleratory Phenomemon)の作用は?
Piezocision
歯根吸収が44%が多い
犬歯移動量に有意差なし
Micro-OsteoPerforation(MOP)
歯根吸収が42%多い
犬歯移動量16%(0.16mm/1ヶ月)効果あった
はたして、これらは臨床的意味があるのか?
そもそも、どうして治療が長引くのか
・誤った診断
・誤ったメカニクス
・誤ったブラケットポジション
・調整のアポイントメント間隔が長い
・患者協力
・破折、破損
自分の頭を使って、これらをコントロールすることで加速矯正を行うことが可能である
例)フィニッシング期間に2週間ごとに治療を行うこと
★結論
加速矯正の真実は何か
・補助的な治療で加速矯正を行うことは難しい
・自分の頭を使え
加速矯正はやはりエビデンスを求めていくと補助的な装置や手術で加速させることは難しいように思います
この本の中でも語られているが、基本どの方法もエビデンスレベルは低く、優位な差はでないように思われます
もちろん効果があると言う先生もおられるし、嘘ではないと思うが、誰がやっても効果が出るレベルとまではいかないのでは?と個人的には思っています
ヒューマンエラーを無くして効率的に治療する方が効果が高いのではないか?
そうなると、講演では語られなかったが、AIやデジタル矯正などコンピューターを駆使した矯正治療の時代が期待されるのではないか?(完全に個人的見解)
たいへん為になる素晴らしい講演でした。
抜歯分析
学会の『あなたの抜歯の考え方は?』という公演で、色々な分析方法が登場していました。
不勉強でついていけないところがあったため、まとめてみました。
ラドニーとかワシは初めて聞いたよ...
Tweed
最適な審美性と安定を実現するために、下顎切歯を基底骨の上に直立させる。(下顎平面に対して90°、下顎平面角に応じてわずかな変動を加えて65〜68°のFMIAを維持することを提唱)
Tweed三角は下顎切歯の角度のみに基づいており、必ずしも前後の位置を反映しないため制限がある
Ricketts
下顎切歯をA-Po planeの1mm前方(-1mmから+3mm)の範囲に22°の角度で配置することを提唱
ただし、その後の研究では、-1mmから+6mm(平均+2.5mm)のより突出した範囲が明らかになった
Steiner
ANB 2°が理想的であるとし、上顎切歯はNAラインに対して22°と4mm前方。下顎切歯はNBラインに対して25°と4mm前方とした
ANBが1°変化するたびに上顎切歯は1°と1mm変化し、下顎切歯は1°と0.25mm(上顎の1/4の変化量)に再配置される
実際に下顎切歯とNBラインを関連付けると、下顎切歯の位置が実際に反映されない。Holdawayは、L1-NB(距離):NB-Po=1:1にすることでシュタイナー分析を修正した
Mc Namara
<軟組織の評価法>
Nasolabial angle(鼻唇角)
鼻下線と上唇線のなす角度で男女とも102°(SD8°)
Cant of the upper lip(ナジオンラインとのなす角度)
女子では13.7°(SD8.2°)
男子では8.4°(SD7.8°)
どちらの評価でも、上唇はやや前方へ突出していなければならない。垂直や後方傾斜の場合、上顎切歯を後方移動させてはならない
<硬組織の評価法>
上顎の位置関係をナジオンライン(FH平面にナジオンから垂線を引いたもの)を使い評価する。しかし、頭蓋底の長さなどに影響される
・上顎切歯の位置
ナジオンラインに平行なA点を通る線を引き上顎切歯唇面までの距離を計測する。理想値は4〜6mm
・垂直的位置
切歯切縁は安静時の上唇から2〜3mm下方
微笑んだ時に上唇線が歯肉縁に位置すべき
・下顎切歯の位置
Rickettsの A-Poで1〜3mm前方
ただし、顎関係に不調和がある場合は修正が必要である。下顎が上顎に対して理想的な位置になるようにした上で新しい A-Poを引き前方1〜3mmの位置にする。
Radney
下顎切歯の切縁が一貫してNA線と揃っていることを指摘した
平均と異なる場合には、セファロの目標は機能しないことが明らかで、すべての骨格に適応することはできない。その場合は修正し、治療中に顎関係が変化する場合はそれも予測しなくてはならない。
治療中にA点やB点の変化は起こるし、顎位の変化や最終的な ANBの角度がどうなるかなんてどうやって予想するんだろう...
調べても修正方法がよく理解出来ませんでした。
アンカースクリューと早期治療
今年の学会で学んだことを書き留めておきたいと思います。
1.反対咬合の治療開始はいつから行うと良いのかについて。
成人の反対咬合で下顎のシンフィシスが薄い患者さんがいます。
咬合していない部位の歯槽骨は薄くなるため、反対咬合の治療を遅らせるのはどうか...早期治療の必要性があるのではないか。
2.MPAの効果とアンカースクリュー併用
上顎前方牽引装置(MPA)でのA点の改善はそれほど多くなく
・A点→1.8mm
・SNA→2.1°
・上顎前歯の唇側傾斜の歯槽性の変化が主に起こる
骨格の改善にはアンカープレートとMPAを使用すればA点が4mm改善するが、
子供にやらせたい親はほぼいない...
そこで口蓋のアンカースクリューとハイラックスを組み合わせよう!
臼歯部に応力かかり、下顎のスイングバックが起きるため、フルカバーのハイラックスの方が良いらしい
この方法で平均3.8mm改善可能
ただし、スクリュー脱落が2割ある。原因はマイクロクラックか?5〜10Nのトルクが良いかも
口蓋アンカースクリューの脱落が2割もあることに驚きました。口蓋でも自分が思っていたよりトルクは小さい方が良いのかもしれないです。
A点の評価はMPAとスクリュー以外に、ハイラックスによるA点の前方移動があるので(Hass,1965;Wertz,1970)、3.8mm -1.8mm=2.0mmにはスクリューとハイラックスの効果が含まれている気がします。
間違っていたらごめんなさい。でも、スクリューとハイラックスの組み合わせは外科治療を避けたい希望のある患者さんには大変良いと個人的には思っています。
悪いかみ合わせは8020を達成できない!?
https://www.8020zaidan.or.jp/member_magazine/pdf/magazine_vol14/76-101.pdf
8020を達成した患者さんを調査した結果、良いかみ合わせが重要なファクターであったそうな
人生100年時代と言われ、国の目標は健康寿命を伸ばして医療費削減なんだとか
80歳で20本の自分の歯があると大体なんでも咀嚼できるので、健康に寄与しているなどと大学で習った気がします
このレポートでは、8020を達成できた人のほとんどが良いかみ合わせをしていたと報告しています
反対咬合と開咬はほとんど見当たらなかったそう
緊密な咬合が重要であり、必ずしも清掃状態が良いとは限らないということも意外でした
かみ合わせが良いーよく咬めるー唾液が出るー緩衝能が高い
かみ合わせが良いー咬合の負担が分散されるー歯が長持ちする
反対咬合と開咬の方は将来のためにも矯正治療することをおすすめします。笑
下顎第一大臼歯の舌側傾斜改善
下顎の6番は舌側傾斜していることが多いと思います。
ネットサーフィンしていたら面白そうなPeer reviewを見つけました。
A new method to correct lingual rolling of lower molars
super elastic Niti arch wire(一般的なNitiとどう違うのかちょっと調べたけどわかりませんでした)を普通だと右側臼歯のスロットに入れる側を左のスロットに入れて、ねじって右のスロットに入れるらしい
臨床例では、前歯には016☓022ステンレスをメインスロットに入れて、Nitiワイヤーはオーバーワイヤーみたいにしているっぽい?
写真で舌側傾斜が改善されたというのを示されているのですが、口腔内全体の写真ないのでなんとも言えないですね。
オープンバイトになっていないと言っていますが本当だろうか?
このフォースシステムだと左の大臼歯は頬側傾斜しながら挺出するように動くし、前歯には圧下力がかかるはず(ステンレスのメインワイヤーがあるので大丈夫らしいが・・)
左の臼歯挺出による下顎の偏位も起こらないのか気になる・・
イスラムでは5枚法で撮らないのかなあ?
Fig3と4で6番のインレー無くなっているし多分違う人だよね?写真の切り取り方もなんか怪しいなあ・・
ちゃんとした論文になったら続きが見てみたいです。
早期歯列弓拡大
GPにも手を出しやすく、拡大しすぎて問題にもなっている床装置による拡大
関崎先生の本が分かりやすかったのでまとめると
・現代っ子の歯槽骨は小さくなっておらず、叢生の原因は歯が大きくなったこと
・乳歯列正常咬合でも、そのうち65.1%が不正咬合に移行する
・歯列弓幅径の成長の変化は
①上顎第一大臼歯は約3.0mm大きくなる
②下顎第一大臼歯はほぼ変化無し
③小臼歯はほぼ変化無しないかやや小さくなる
④上下顎犬歯は永久犬歯萌出時をピークとし、その後小さくなる
・永久犬歯萌出後に前歯の叢生は自然治癒しない。叢生解消の乳犬歯抜歯は問題の先送りにしかならず、永久犬歯の萌出部位の喪失につながる
・拡大の効果的な時期は永久犬歯萌出前
・下顎歯列弓拡大は難しく、限界は前歯のALD-3.0mm。超える場合は全顎矯正を前提とした連続抜去やストリッピング、乳歯の抜歯
・拡大治療は咬合が不安定になりやすい。緊密な咬合のためにはマルチブラケット必要
・拡大後ほぼ全ての症例は後戻りするのでリテーナーを半永久的に使うか、永久固定必要
シュワルツの装置を使っているが症例が多かった印象
上顎リンガルアーチなどの保隙装置は、側方の成長を阻害している可能性があるかも
この論文によると
・上顎第一大臼歯の頬舌的歯軸傾斜角の年間増加量は8歳でピークになり、歯軸は頬側から舌側になる
・下顎第一大臼歯も8歳でピークになり、歯軸は舌側から頬側へ変化する
・上顎大臼歯は頬側から舌側に歯軸変化しながら萌出してくるため、上顎歯列弓の増加は口蓋の成長が主体となる
・下顎大臼歯は直立により幅径が増加するため、咀嚼運動とも関連している
歯列弓の側方への成長の仕方は上下顎で全然違うみたいです